2010年7月17日土曜日

独立と生存のための日米戦争? (32)

藤原氏のように、20世紀の悲劇を「武士道の衰退」のせいにするのは大きな間違いだと私は思う。だが、いつかそれについて触れるとしても、ここで注目したいのは、「日米戦争は独立と生存のためだった」という藤原氏の主張だ。

藤原氏は、真珠湾攻撃後のルーズベルト大統領の演説についてこう述べている:

「ルーズベルト大統領だけが『恥ずべき』とか『破廉恥』などという最大限の形容を用いて憤激して見せたのは、モンロー主義による厭戦気分に浸るアメリカ国民向けでした。『アメリカの若者の血を一滴たりとも海外で流させない』という大統領選での公約を破り、欧州戦線に参戦するための煽動だったのです。計算どおり、国民は憤激し、熱狂し、大戦に参加することが出来たのです」   「国家の品格」 第三章より


またまたルーズベルト大統領についての陰謀論だが、「アメリカと中国の関係」や「真珠湾攻撃までの流れ」を考えれば、これはいかに愚鈍な考え方かはわかる。

確かに、ルーズベルトはヨーロッパの大戦に参戦したかった。だが、そう思っていた政治家や一般人は他にも大勢いた。アメリカとイギリスの絆は深かく、ヒトラーの大陸での残虐な侵略を見てみぬ振りは出来なかった。ヨーロッパへの参戦は当時のアメリカ人の賞賛すべき決心だったとも言えるだろう。

日本との開戦について、ルーズベルト大統領は煽動する必要なんて無かっただろう。日露戦争の時代から多くのアメリカ人が感じていた日本に対する好意は、日中戦争のニュースによって徐々に消滅してしまい、真珠湾攻撃を通して、それは完全に底をついてしまったわけだ。大統領の演説は大衆を煽動するための策略どころか、全国民が感じていたことを表現しただけだった。

もう一つ注意したいのは、日本に対する尊敬が徐々に軽蔑と不信に変わってしまったのは、元々あったアジア人に対する偏見によるものではなかったことだ。一部のアメリカ人には、日本人に対する偏見は確かにあり、移民問題からそれはわかる。だが、一部の人間は醜い差別に心を奪われていたとしても、その偏見が真珠湾攻撃後に爆発的に広まった原因の一つは、中国に対する日本の軍事行為をアメリカ人は何年も見てきていたことだ。

日米戦争は類稀なる悲劇だった。犠牲者となった各国の兵隊を考えても悲劇だった。各々の戦地で紛争に巻き込まれて犠牲者になった民間人のおびただしい人数を考えても悲劇だった。しかし、何と言っても、「紛争に至るまでの数十年間にわたる過程のどこかで、戦争を予防することができたはずだ」と思えば、それは特に悲劇に思えるだろう。

藤原氏のように、日米戦争は避けられなかった「独立と生存のための戦いだった」と主張することは、数多くの歴史事実を無視する無責任なカリカチュアであり、(日本を含めて)各参戦国の犠牲者に対する侮辱でもあるような気がする。

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